市場の声から生まれた「静音型床置気化式加湿器」
弊社製品に対するニーズをまとめた顧客満足度情報の中で「建築中や大規模リニューアルの物件でない限り、後から加湿器設置のために天井内の施工をすることは難しい。床置型の加湿器があれば給排水設備の追加くらいで後から設置でき、メンテナンス作業も行いやすい。また、運転音の静かな加湿器なら使用用途の選択肢が増えるんですけど…」といった声が。そこで、これら市場ニーズを具現化し、利用者の快適環境の実現に向けて「静音型床置気化式加湿器」の開発がスタートした。
大学で機械工学を専攻後、2007年にウエットマスターに入社。受注生産品の設計に約10年間従事し、システムによる図面作成の自動化に貢献。その後製品開発を約7年間担当し、これまで主に3機種のリーダー/サブリーダーを経験した。2024年に稼働した製品開発拠点であるR&Dセンターでも継続して新製品開発を担当している。技術的な課題解決に情熱を注ぐ。
これまでも弊社ラインナップには床置型気化式加湿器はありましたが、データセンターなどの電算機室向けの加湿器であり、運転音が大きくオフィスなど人が活動する場所での利用には向かない製品でした。市場では、他社製の類似製品が採用される事例もありましたが、運転音が大きく実際には使われていないケースが見受けられました。
そこで運転音が抑えられれば用途が広がるのではないか、という仮説のもと「事務所向け静音型床置気化式加湿器(VWBタイプ)」の新製品開発を企画。市場ニーズに合わせた仕様の設定など、関係部門と検討を重ね、試作機による検証・調査を行った結果、提案通りの製品仕様が概ね実現できる見込みが立ち、正式に新製品開発プロジェクトがスタートしました。
今回のプロジェクトで最⼤の課題となったのは、「新規採用部品の信頼性・耐久性確保」と「静音仕様にするための消音材の配置」でした。
1つ目の課題は、最適な新規部品(ドレン排水用ポンプ)を探し出す必要があること。製品に組み込む部品は、たとえコストや必要な能力を満たしていても、信頼性や耐久性がなければ製品には使用できません。そのため、プロジェクトが正式にスタートする前から新規部品の信頼性や耐久性を検証するライフテストを繰り返し、求める基準を満たした部品を選定することができました。また、ドレン排水用ポンプ以外の部品についても既存製品で使われている流用部品を多く選定することで、信頼性、耐久性を確保するとともに、製品を早期に市場へ投入することに成功しました。
2つ目の課題は、いかにして静音性を実現するかです。音の発生源を特定するために加湿器の内部を調べた結果、ファンの吸込口と吹出口で音の大きさに差があることが分かりました。これがヒントとなり、ファンの吸込口付近に消音材を配置することで運転音が軽減できることを突き止め、検証試験を繰り返しながら最善な配置位置を探り、最終的に運転音45dB以下という目標を達成することができました。
今回のプロジェクトは開発拠点の建替え時期と重なり、十分な検証環境がない中で進めなければならないという別の課題もありました。しかし、そうした状況の中でも、試験機器のレンタルや外部機関への試験依頼、検証工程の工夫など、様々な方法を駆使して柔軟に対応して製品開発を成功させることができました。
弊社では各部門よりメンバーがアサインされプロジェクトチームとして進めます。様々な観点から製品を評価・検証するにあたり、私はそのリーダーとして各部門からの意見を調整していきました。
製品化に向け、販売・製造・メンテナンスなどそれぞれの部門から出される異なる目線の意見に向き合うこととなります。例えば、営業部門では定価設定やカタログ作成、PRポイントなど販売を意識した意見。メンテナンス部門では、メンテナンス方法や交換部品についてなどお客様に長く使い続けていただくための意見。生産部門では製造委託先に対する組立指示や効率よく生産できるようにするための意見など、それぞれの部門が熱意をもって製品に向き合うため、時には意見を集約するのが大変な時もありましたが、より良い製品を送り出すため打合せを重ね、製品を完成させていきました。
また、今回のプロジェクトは上層部の意欲も強く、意思決定がとても速かったのが印象的で、意思決定のスピードが開発期間に大きく影響することを痛感しました。問題を課題として捉え、複数の解決案の中から最適な設計案を見出し、提案することが開発プロジェクトリーダーとして大きな役割であり、今回の成果につながったと実感しています。
マイナス10℃~50℃までの温度条件に設定し加湿器の環境適応性を検証できる環境試験室や、大型空調機内を再現し組込み型加湿器の試験ができる設備など、加湿器に関する各種試験を行える施設として2024年に稼働しました。
今回の開発テーマでも量産後の定期能力確認のため製品の妥当性確認などに活用しました。環境試験室や多目的試験室が各2室あるため、複数テーマを平行して試験ができ、製品開発のスピード感や生産性の向上につながっています。
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