- 加湿に対する認識不足
- オフィスビルの空調負荷の変化
- 整備不良による能力不足
INDEX
湿度不足はなぜ起きる?
事務所ビルの温湿度の実態
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則(略称:建築物衛生法)は、定期点検と記録が義務づけられ、さらに自治体(保健所など)による立入検査が行われます。この立入検査の結果をもとに、事務所ビルの空気環境、なかでも温度・湿度の実態について触れてみます。
下表は、東京都の立入検査の結果を抜粋したもので、湿度の不適合率は温度に比べて格段に高い数値にあることがわかります。また、温度以外の他の項目(浮遊粉じん量など)もすべて不適合率は10%以下であり、相対湿度は例年ワースト1にあるといえます。さらにデータは通年のものであり、冬期に限った相対湿度の不適合率は、特に高い傾向にあります。
東京都内特定建築物の立入検査の結果(通年値)
| 調査年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 特定建築物届出数 | 8,406 | 8,432 | 8,449 | 8,491 | |
| 立入検査 等件数 |
特別区・ 島しょ地区 |
立入検査等件数の 公示なし |
887 | 814 | 836 |
| 多摩地区 | 61 | 122 | 128 | ||
| 不適合率 | 温度 | 0.8% | 0.7% | 0.6% | 0.9% |
| 湿度 | 22.1% | 22.7% | 15.2% | 23.3% | |
東京都健康安全研究センター広域監視部建築物監視指導課調べ
湿度不足の原因
事務所ビルの冬期の湿度不足は、改善が強く望まれていますが、湿度不足の原因はどこにあるのでしょうか。それぞれのビルの空調方式などにより事情は異なりますが、下記のような加湿の問題が顕在化しています。
この背景には、部屋単位の空調である個別分散空調の普及に伴って空調機の小型化が進み、空調機内に能力を満足する加湿器を組み込むことが困難であること。また、天井隠ぺいなど加湿器の取付場所の問題で十分なメンテナンスができないことが挙げられます。
さらに近年ではオフィスでの電子化が進んだことによってオフィス内の発熱量が増加し、暖房期でも冷房を必要とすることが多くなっています。この場合、ビル空調用加湿器の主流である気化式加湿器では、空気温度が低いために能力不足になることがあります。では、項目ごとに詳しく見ていきましょう。
加湿に対する認識不足- 加湿器選定の難しさ、空調方式・空調機の不適合-
加湿による空気の状態変化の中で相対湿度100%にいたるまで、どこまで加湿できるかを表す目安として飽和効率があります。加湿器(機種)によって適用する飽和効率はそれぞれ異なり、これらをきちんと理解した上で選定を行わないと加湿不足になる可能性が高くなります。
設備用パッケージエアコン(床置ダクトタイプ)と組み合わせる加湿器を選定する場合、設置スペースを必要としないのは、パッケージエアコン内への組込です。その加湿方式には、蒸発皿式(蒸気式)や水スプレー式など様々ありますが、近年は「省スペース」、「低消費電力」、「水処理不要」、「メンテナンス性の良さ」などのメリットから気化式加湿器が採用されるケースが顕著です。
その一方で、肝心の加湿能力に対する不満が増えていることも事実です。「気化式加湿器は湿度がのらない」という先入感は、「設計時における選定上の確認不足」が原因となっている場合があります。なぜ、気化式加湿器で加湿不足が起こるのか。そのキーワードは「飽和効率」と「空調機の運転モード」にあります。気化式加湿器の特徴をとらえ、前述のキーワードを考慮に入れることで、確実な加湿を実施することが可能となります。
オフィスビルの空調負荷の変化- OA機器の増加による室内発生顕熱の上昇-
オフィスビルにみられるケースとして、入居するテナント企業が入れ替わる際に、業種によっては室内で使用されるOA機器の量が著しく増加する場合があります。設計時に一般オフィスを想定して選定が行われたビルにおいては、室内発生顕熱の増加により設計時と実際の空調負荷の間に差異が生じ、その結果加湿器が能力不足となることがあります。また、加湿負荷が同じであっても水加湿方式の場合、空調機の吹出温度によって必要飽和効率が異なるため、気流の温度が低下した場合には必要飽和効率が著しく上昇することがあります。
暖房期に空調機の暖房運転が短縮され、空調機の吹出温度が低下することにより必要飽和効率が上昇し、加湿不足となることがあります。実際に例で見てみましょう。
空調機組込型の加湿器の場合、加湿器選定の際には加湿負荷(必要加湿量)を把握するだけではなく、どれだけの飽和効率が必要であるかを把握することも重要なポイントになります。 同じ加湿量を必要とする場合、空気の温度が低くなると加湿は難しくなり、高い飽和効率が必要となります。
気化式加湿器で、 暖房運転30℃・20%RHの空気10,000m³/h に20kg/hの加湿を行う場合、必要な飽和効率は、X1/X ×100≒28%ですが、 送風運転で空気温度が15℃になった場合に同じ量の加湿を行うために必要な飽和効率は、X1/X ×100≒76%となり、80%近くまで上昇します。
このように必要加湿量は同じであっても、必要飽和効率によって適用できる加湿器が異なります。必要飽和効率が高い場合には、適用飽和効率が高い加湿器を選定することが必要となります。空調負荷の変化を認識し、飽和効率に見合う加湿器を選定することが重要です。
整備不良による能力不足
加湿器は水質の影響を受けやすい機器であり、水垢やスケールなどの堆積は能力低下や故障の原因となります。また、加湿器の汚れは衛生上の問題になることがあり、『建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:建築物衛生法)』では「加湿装置は使用開始時および使用期間中の1ヵ月以内ごとに1回の定期点検(必要に応じて清掃)、排水受け(加湿装置が組み込まれている空調機ドレン受けを含む)を備えるものは同じく1ヵ月以内ごとに1回の定期点検(必要に応じて清掃)、1年に1回の定期的な清掃」を行うことと定められています。
気化式加湿器の場合
気化式加湿器の加湿モジュールは運転時間の経過とともに空気中の塵埃や給水中の水垢成分が付着し、徐々に汚れてきます。またこの汚れは水を流すだけでは落としきれません。取り外して薬品での洗浄が必要となります。汚れをそのまま放置すると加湿能力は低下するため、最低年1回の洗浄が必要です。
未使用時の加湿モジュール
汚濁水が給水されトラブルとなった
加湿モジュール
エアハンドリングユニットに組み込まれた
加湿モジュール風下側に析出したスケール
蒸気式加湿器の場合
蒸気式加湿器はヒータなどにより水を加熱し蒸気を発生させますが、運転時間の経過とともに水垢成分はヒータなどに固着し、伝熱の阻害要因になり能力が低下します。電極式を除く蒸気式加湿器は、給水に軟水を使用することによりメンテナンスは軽減されますが、この場合でも年1回以上の掃除が必要です。
未使用の蒸気シリンダ内部の電極
スケールが付着した電極
4000時間運転後、表面にスケールが固着したヒータ
SUS製タンク内側、底へスケールが堆積
水噴霧式加湿器の場合
水噴霧式加湿器を代表する超音波式加湿器は、超音波振動子により水を微細な霧状にして気流中に噴霧する加湿器ですが、超音波振動子には寿命があり定期的な部品交換が必要となります。また運転時間の経過とともに、水槽内は給水中の水垢成分の付着により汚れてきます。この汚れは超音波振動子に悪影響を与え、加湿の能力を低下させる原因のひとつとなります。
また水槽内の水を常温のまま直接気流中に噴霧する構造上、衛生上の見地からも水槽内の定期的な清掃が必要となり、特に連続して運転を休止する場合には水槽内の水抜きが必要となります。
掃除前の超音波式加湿器
掃除された超音波式加湿器

